2012年11月24日土曜日

橋姫:ついに自らの出生の秘密を知った薫

冷泉帝から、宇治の地で、ひたすら仏道に明け暮れる八の宮の話を聞いて、薫は興味を引きつけられる。

薫は、その出生のせいからか、母の女三宮が、出家の生活を送っているからか、やはり、仏道に一方ならぬ興味を持っていた。

そして、八の宮という人物に会いたくなり、その出会いが縁となり、自らの出生の秘密を知ることとなる。

そして、本当の父、柏木の書いた文章や歌に、接することになる。

(柏木)目の前にこの世をそむく君よりも よそに別るる魂ぞ悲しき

(柏木)命あらばそれとも見まし人知れぬ 岩根にとめし松の生ひ末

八の宮は、光源氏とは、母違いの兄弟に当たる。八の宮は、薫にとって、父のような存在として描かれている。

橋姫:宇治の土地の特性を上手く使っている

この橋姫から、いわゆる宇治十帖が始まる。

この帖では、その宇治についての自然描写が多く、この帖の名前自体も、宇治川の様子を歌い込んだ、以下の歌からとられている。

(薫)橋姫の心をくみて高瀬さす 棹のしづくに袖ぞぬれぬる

(大君)さしかえる宇治の河長朝夕の しづくや袖を朽たし果つらむ

かつて光源氏が、明石の地を訪れ、物語の展開が大きく変わったように、薫は、この宇治を訪れることで、自分の出生の秘密を知ることになる。

都から少し離れ、山と川に囲まれた地。作者とも縁のあった藤原道長が、平等院を建てた場所。

そうした宇治の特性を、この帖では、実に上手に活かしている。

橋姫:素晴らしい構成の帖

この帖は、そのストーリーの構成が、実によく出来ている。

光源氏と、母の違う兄弟に当たる、桐壺院の子供の八の宮。愛する妻失い、美しい娘二人と、都の中心から離れた宇治の地に暮らしている。

八の宮が、仏教を深く信仰していると聞き、その元を訪ねる薫。そこで、美しい大君と中の君に出会う。

八の宮の元には、薫の実の父である、柏木の近くに使えていた女官がいて、ついに、薫が、自らの出生の秘密を知ることになる・・・

紫の上と光源氏の死によって、一時は、物語全体の灯が消えてしまったようだったが、この橋姫の帖から、また再び、新しい物語が始まることが、明らかになる。

作者の、ストーリー・テラーとしての才が、この帖で再び蘇ったようにも思える。

2012年11月23日金曜日

竹河:宇治十帖までのサイドストーリー

この竹河の帖の始まりは、すこし奇妙な始まり方だ。

源氏の元から離れ、玉鬘について、髭黒の元にいった、お付きの女性達が語った話である、として始まる。

全体として、およそ10年の期間を描いていて、終わりは、続く橋姫の帖よりも、時間的には後のことを描いている。

いわば、本筋とは違った、サイドストーリー的な内容になっている。

作者は、未だに、光源氏の死のショックから抜け出せないかのようだ。

竹河:蔵人少将の大君への思い

夕霧の息子、蔵人少将は、玉鬘の娘、大君を一目見た時から、その美しさに文字通り、一目惚れ。

しかし、玉鬘は、蔵人少将は大君の相手として相応しくないとして、結局、冷泉帝の元に嫁がせてしまうのだが、この蔵人少将の大君に寄せる思いは、少し強すぎる。

(蔵人少将)生ける世の死には心にまかせなば 聞かでや止まぬ君が一言

若いといってしまえばそれまでだが、ここまで激しい思いを表す登場人物は珍しい。

同じく、大君に思いを寄せていた薫の冷静さとの対比がまた面白い。

竹河:母としての玉鬘の苦労

この帖では、玉鬘が主人公だが、母として、娘の嫁ぎ先に苦労する姿が描かれている。

光源氏の元に養女として引き取られ、かつては、都中の男たちから、熱い視線を送られ、光源氏も、熱い思いを寄せた玉鬘。

黒髭に強引に操を奪われ、その妻となり、3男2女を設けたが、黒髭が若くして亡くなってしまい。その後ろ盾を失ってしまう。

長女の大君は、冷泉帝に嫁がせたが、弘徽殿の女御や、秋吉中宮との関係が上手く行かず、かつてその大君に思いを寄せた男たちは、次々と出生してしまう。

玉鬘は、かつての頭の中将の娘だったが、九州で育った。その地方で育った、という背景のせいか、この物語の中では、あまりよくは描かれていない。作者の、地方蔑視のせいかもしれない。

2012年11月3日土曜日

紅梅:光源氏の面影

紅梅の帖の主要な登場人物、紅梅大納言は、光源氏と直接交流していた人物。

この帖のところどころで、紅梅大納言は、折にふれて、光源氏のことを思い出し、追想にふける。

その紅梅大納言は、再婚した真木柱の前の夫との娘、宮君に下心を持っている。このあたりは、玉鬘に下心をいだいた光源氏をなぞっているようだ。

新しい物語は、まだはじまったばかり。まだ、この段階では、光源氏の時代を引きずっている。

紅梅:女性の名前が味気なくなった

光源氏が主人公だった時代。女性の名前は、花にまつわるものが多く、文字通り、宮廷の華やかさを表していた。

紫の上、葵の上、花散里、末摘花、・・・。

しかし、匂宮の帖から始まる、次世代の物語の女性達は、それに比べると、実に味気ない。

大君、中君、宮君・・・。

光源氏の時代に比べて、女性に個性がなくなった、ということなのだろうか。

紅梅:匂宮をとりまく状況

前の匂宮の帖では、その名前とは異なり、むしろ薫を中心とした内容だったが、この帖では、今度は、そのライバルである匂宮をめぐる様々な事情が描かれる。

柏木の弟、紅梅大納言は、自分の娘である大君を春宮に輿入れさせ、その妹の中君を、匂宮の元に嫁がせようとしている。

一方の匂宮は、夫の死後、紅梅大納言と再婚した、真木柱の娘、宮君に想いを寄せている。

薫は、柏木と女三宮の子供であり、光源氏と直接の血のつながりはない。しかし、匂宮は、光源氏の娘、明石中宮と天皇の子供なので、光源氏にとっては孫に当たる。

薫は、出生の秘密もあり、影のある人物として描かれるが、匂宮には、そのような暗さはない。

匂宮:やや暗い性格の薫

光源氏以降の物語の主人公の一人、薫。

光源氏の正妻、女三宮と柏木の間に生まれた不義の子だが、光源氏の実の子供である冷泉帝の元で、大切に育てられている。

しかし、本人は、周囲の雰囲気などから、自分の出生に秘密が隠されていることを、薄々感づいている。

母の女三宮は、柏木との不義の一件から、柏木との不義の記憶に苦しめられ、ほぼ出家したような暮らしを送っている。

柏木は、詳しい事情は知らないものの、そうした母をかわいそうに想い、自分が守っていきたいと考えている。そのせいで、あまり女性との恋愛には、積極的ではない。

匂宮:光の時代から匂いの時代へ

光源氏の死後、物語は、光源氏と縁のある、薫と匂宮という二人の男性を中心に展開される。

光源氏は、文字通り光、つまり視覚に関連する名前であり、薫と匂宮は、嗅覚に関連する名前になっている。

文章の中にも、この二人は光源氏には劣る、とはっきりと書かれている。名前も、光というきらびやかなものから、匂という、やや地味な印象を与えるものになり、新しい登場人物の様子を、実によく表している。

匂宮:新しい物語の始まり

この匂宮の帖の冒頭で、光源氏の死が告げられる。

この帖から、新しい物語が始まる。

光源氏の死から、何年かの時間が経っている。この帖では、その空白の期間を受けて、薫、匂宮らの新しい登場人物の様子と、光源氏在りしの主要な登場人物のその後の状況が紹介される。

この帖は、匂宮、という名前になっているが、内容的には、匂宮よりも、薫の周辺に重点が置かれた内容になっている。

雲隠:本文のない帖

光源氏の出家を描いた幻と、匂宮の帖の間に、古来、雲隠、という名前の帖が置かれる。

しかし、この帖には本文がない。表紙に題名だけが書かれた帖になっている。

作者自身が置いたとも、藤原定家のような後世の人間が置いたとも言われる。

そこでは、光源氏の死が描かれていることが想定される。しかし本文はない。作者といえども、スーパースター、光源氏の死を描くことは出来なかった、とも言える。

誰が考えたにしろ、気の効いた演出だ。