2012年9月25日火曜日

鈴虫:皆が出家をしたがっている

女三宮の出家につられて、六条院の女性たちが、出家したがり、光源氏はそれを諫める。

冷泉院も、もっと実の父である光源氏と頻繁にあいたいという理由で、一線を退きたいと思っている。

秋好中宮は、光源氏は口外していないにも関わらず、周囲の噂で、六条御息所の霊が光源氏を悩ませている、という噂を聞いて、この世が厭わしくなり、出家したがってる。

光源氏の周囲では、誰もが、出家したがっている。

このような状況は、この物語の中では、これでまではなかった。あきらかに、この物語の全体の基調が、変わっていることを表している。

鈴虫:女三宮に未練を感じる光源氏

柏木と不倫した女三宮を、光源氏は、当初、快くは思わなかったが、いざ、女三宮が出家してしまうと、逆に、その若々しい美しさに未練を感じる。

光源氏は、女三宮の六条院の住まいの近くに、庭を造らせ、そこに鈴虫、松虫などを放ち、秋の風情を演出する。

さすがに、女三宮も、秋の虫の声に、世俗の生活への未練を感じたようだ。

(女三宮)おほかたの秋をば憂しと知りにしを ふり捨てがたき鈴虫の声

(光源氏)心もて草のやどりをいとへども なほ鈴虫の声ぞふりせぬ

鈴虫:ものものしい出家の女三宮

柏木との不倫、光源氏の冷たさなどから、薫を出産した直後に、出家を決意した女三宮。しかし、出家したとはいえ、光源氏が六条院を離れることを許さず、その中で、暮らすこととなる。

光源氏は、女三宮のために、紫の上にも手伝わせ、見るも艶やかな仏具を揃える。

女三宮の父、朱雀院は、娘を光源氏のもとから引き離したかった。そこで、光源氏は、そうした朱雀院にも配慮して、朱雀院からの贈り物や、女三宮の豪華な持参品を、三条宮にきちんと収めさせる。

いやはや、それにしても、実にものものしい出家の支度。女三宮は、出家してからも、悩みが尽きることはなさそうだ。

2012年9月24日月曜日

横笛:めずらしいオッパイぽろりシーン

上品なイメージの強い、この物語の中で、この帖では、珍しいシーンが登場する。

夕霧が、柏木の亡き妻、落葉といい感じの雰囲気で過ごした後、家に帰ると、妻の雲井雁が、胸をはだけて、幼い子供に、乳をあげている。

いとよく肥えて、つぶつぶと、をかしげなる胸をあけて、乳などくくめ給ふ。

母親が子供に、母乳をあげているシーンとはいえ、この表現は、これまでに見られない、生々しい描写だ。

横笛:柏木の霊は大人しい

この物語で、霊というと、六条御息所の霊がすぐに思い浮かぶ。源氏に振られた腹いせに、葵の上を呪い殺し、紫の上も、病気にしてしまった。

この帖では、柏木の霊が登場するが、こちらは大人しい。親友の夕霧の枕元に立ち、

笛竹に吹きよる風のことならば 末のよながき音に伝えなん

と、自分の忘れ形見を、我が子の薫に、伝えて欲しいと訴える。

この時代の人にとって、霊とは、生前に果たせなかった思いが強い場合に、死に切れずに霊になって、この世に現れる、そんな風に考えられていたようだ。

2012年9月17日月曜日

柏木:柏木の妻の落葉に言い寄る夕霧

柏木が死ぬ間際に、”(妻の)落葉のことを慰めてやってくれ”と言われたことをいいことに、柏木の死後、頻繁に落葉の元にかよう夕霧。

ついに、恋の歌を送ったりする。

(夕霧)ことならばならしの枝にならさなん 葉守の神の許しありきと

(落葉)柏木に葉守りの神はまさずとも 人ならすべき宿の下枝か

夕霧も夕霧だが、落葉も落葉だ。

いやはや、こんな時にも、未亡人に言い寄ってしまうのが、当時の王朝文化の習慣なのか。実にのどかな時代ではあった。

柏木:女三宮の出家と六条御息所

薫を出産したものの、柏木との不倫、光源氏の冷たい態度などを受け、世の中のことが全て憂鬱になり、出家を望んだ女三宮。

父の朱雀帝も、その願いを聞き入れて、ついに、髪をそり、尼となってしまう。

そこに六条御息所がまたまた登場。自分が女三宮に取り憑いていたことを暴露する。

しかし、かつて生き霊として葵の上を死に追いやった六条御息所だが、紫の上は、死に追いやれず、女三宮も、出家させるのがやっと。その霊力にも限界が来たのか?

むしろ、光源氏の方が、その眼力で、柏木を殺してしまうほどの力を発揮している。

柏木:光源氏の鈍感力

ついに、柏木と女三宮の不倫によって、運命の子、薫が誕生する。

光源氏は、若き日の自らの過ちを思い出し、因果は巡る・・・と複雑な気持ちになる。

しかし、それでも、落ち込んでしまわないのが、光源氏。

次第に、”この子は、女三宮にも柏木にも似ていない。自分に似ているのでは?”などと、のんきなことを思ったりする。

この鈍感力こそが、そうした難しい状況でも、乗り切ってしまう光源氏の秘密なのかもしれない。

柏木:光源氏がもたらした柏木の死

女三宮との不倫が、光源氏に露見してしまい、その”眼力”で病気になってしまった柏木。周囲の配慮や介護も空しく、この帖でついに死んでしまう。

これまで、藤壷、葵の上、六条御息所など、女性の主要な登場人物の死はあったが、男性の主要な登場人物の突然の死はなかった。

これまで、光源氏の相対する人間は、ほとんどが女性だった。しかし、光源氏が年老いて行くに連れて、女性以外との接点が増えてくる。

柏木の死は、光源氏のそうした人生における環境の変化を表している。そして、柏木の場合は、光源氏自身が、柏木を殺してしまう、加害者にもなったのだ。

2012年9月5日水曜日

若菜(下):六条御息所再び

かつて、光源氏の正妻を呪い殺した、六条御息所が再び登場。今度は、光源氏の最愛の人、紫の上を襲う。

光源氏の必死の供養もあり、さすがに、すぐに紫の上が命を失うことはなかったが、紫の上の体調は、決して、元に戻ることはなかった。

光源氏としては、娘の秋吉中宮を保護したことで、六条御息所に報いたと考えていたが、六条御息所のとっては、やはり、娘のことよりも、光源氏の愛が欲しい、ということなのだろう。

(六条御息所)わが身こそあらぬさまなれそれながら 空おぼれする君は君なり

若紫(下):ついに思いを遂げた柏木

女三宮への思いを断ち切れない柏木は、ついに、馴染みの小侍従の手引きで、女三宮の元を訪れ、ついに思いを遂げる。

女三宮は、柏木に迫られ、抵抗することもできず、柏木に身を任せてしまう。

女三宮は、この物語の中では、朱雀院の娘ということもあり、典型的な世間知らずの、自己主張できないお嬢様の役割を忠実に演じている。

別れの朝、二人は歌を詠み交わす。

(柏木)おきて行く空も知られぬ明けぐれに いづくの露のかかる袖なり

(女三宮)あけぐれの空に憂き身は消えななん 夢なりけりと見てもやむべく

この一度の過ちは、この物語の流れを、大きく変えることになる。

若菜(下):昔話が多くなった光源氏

昔話が多くなると、年を取った証拠などと、よく言われる。この帖の光源氏はまさにそれだ。

紫の上を相手に、過去の自分の女性遍歴を語ったり、朧月夜が出家したと知り、朧月夜や朝顔との思い出を振り返ったりする。

この物語の冒頭の帖とは、明らかに全体の調子が変わっている。

こうした光源氏の、気持ちの変化は、決して彼だけのものではなく、この物語を綴っている人物が、実際に年を重ねて、そうした気分になってことと、関係があるのだろう。

2012年9月4日火曜日

若菜(下):女心がわからない光源氏

これまで、光源氏は、美人でもそうでなくても、身分が高くても引くても、いろいろな女性を愛し、保護してきた。

女性の立場から見れば、こんな男性がいたらいいなあ、という理想的な男性像として描かれてきた。

しかし、この帖では、紫の上との会話で、意外な一面を披露する。

紫の上は、30代の中盤になり、年齢的な不安に加えて、朱雀院の娘の女三宮が正室として光源氏の元に嫁いできて、自分の立場が弱くなったこともあり、精神的に、不安定な状況に置かれていた。

光源氏は、そうした紫の上の苦しい胸の内を察することができずに、”私の辛い人生に比べれな、あなたは、気楽で幸福な人生だ”などと言ってしまう。

紫の上は、そうした光源氏の心ない言葉を受けて、”出家したい”と切り出すが、光源氏は、”あなたがいなくなったら、私の生きるかひがなくなる”などと、結局、自分のことしか考えていないことを露呈してしまう。

若菜(下):華麗なる琴の響宴

朱雀帝の50才のお祝いに、女三宮の琴を聞かせるために、光源氏は、女三宮に琴を教えている。その成果を試そうと、六条院でプライベートコンサートを企画する。

出演は、女三宮の他に、紫の上、明石の上、その娘の明石女御の4人。それに、拍子を取る役として、夕霧も呼び寄せる。そして、自らも、華麗なる歌声を披露する。

この女性4人の着物、琴の弾き方が、その性格とあわせて、華麗に描かれる。この物語全体の中でも、最も華麗なシーンの一つ。

谷崎潤一郎の『細雪』でも、ここから取ったと思われるシーンがある。

光源氏の、琴に対する自論も、この帖の中で展開される。

若菜(下):誰が一番幸福だったのか?

光源氏は、明石入道の願文をみつけたことをきっかけに、住吉神社への参詣を思い立つ。

果たして、この物語の中で、最も幸福だったのは誰だろうか?明らかに光源氏ではない、それは、この帖で本人が、自分の人生を悲観的に振り返っていることでもわかる。

光源氏に一番愛された、紫の上でもない。

どう見ても、一番幸福なのは、娘を天皇に嫁がせた明石の上、後の天皇を始めとした多くの皇子を生んだ明石女御、というより、明石一族だったように見える。

明石入道の住吉の神への願かけが、そうした幸福をもたらした。

この明石一族の存在は、この物語全体の解釈において、大きな位置を占めている。

若菜(下):唐猫に対する柏木の異常な愛情

唐猫のいたずらによって、偶然、女三宮の姿を見てしまった柏木は、女三宮のことが忘られず、何事も手につかず、悶々とした日々を送っている。

そして、春宮を介して、女三宮の側で飼われていた、例の唐猫を手に入れる。

柏木は、その唐猫を女三宮にみたて、寝室で一緒に寝るほど、この唐猫を溺愛する。唐猫に対する柏木の異常な愛情が、この帖の冒頭で描かれる。

猫は、当時、遣唐使船などを通じてもたらされたばかりの舶来の、めずらしい動物。特に美しい猫には、専属のお付きの女官がついていた、という。

そうした時代背景の中でも、柏木の女三宮への愛情が、猫という動物を通じて、表現されている。

若菜(下):まるで独立した1つの作品のよう

若菜(下)の帖は実に長い。帖自体も長いが、扱っている期間も、光源氏が41才の時から47才の時まで、およそ7年間を扱っている。これだけの長い期間であるため、その中で起こる出来事も多い。

しかし、この帖の中での最も大きな事件は、紫の上が病いに落ちることと、柏木と光源氏の正妻である女三宮との不倫の2つだろう。

この2つのエピソードは、この帖の後半で現れる。前半は、住吉神社への光源氏一向の豪華な参詣、光源氏の周りの女性たちによる華麗な琴の響宴、という華やかなシーンが描かれる。

そして、後半、そうした華やかさが、一気に不幸の底に落とされる、先の2つの事件が発生する。

この2つの事件が、作者の絶妙な筆力で、まるで織物のように、見事に交錯して、1つの帖の中で展開する。この2つの出来事は、この物語全体の後半の話の展開に大きな影響を与えている。

この帖だけで、独立した作品として捉えることができるほど、この帖の完成度は高い。