2013年3月18日月曜日

夢浮橋:それぞれの立場

この帖では、薫と浮舟だけでなく、その周りの人々も、それぞれの思いとともに描かれる。

横川の僧都は、浮舟の願いを受け入れて、一度は出家させるが、薫が彼女を強く思っていることを知り、出家させたことを後悔する。

横川の僧都の妹尼は、自分の死んだ娘にそっくりな浮舟が、薫と深い関係があったことを知り、浮舟の気持ちも考えず、その事情を、しきりと知りたがる。

浮舟の父違いの弟、小君は、保護者の薫の気持ちを慮り、浮舟に、薫への返事を書いてもらおうとする。

それぞれの立場の人々が、気持ちが混じりあうことなく、それぞれの立場で描かれている。

夢浮橋:浮舟の立場から

出家を決意し、小野の地に暮らしていた浮舟のもとに、薫の使いとして、父の違う弟の小君が、薫の手紙をたずさえて訪れる。

小君に会いたい気持ちはあるが、会ってしまえば、また薫との関係が始まってしまう。

横川の僧都の妹尼からも、薫との関係をいろいろと詮索され、浮舟は、そうした葛藤の中で、涙に暮れるばかり。

最後の最後まで、周囲の人々の思惑に翻弄される、浮舟であった。

夢浮橋:薫の立場から

浮舟が、横川の僧都の保護を受けて、出家して小野の地に住んでいることを知った薫は、横川の僧都のもとを訪ね、その消息を確かめようとする。

確かに浮舟であることを確認した薫は、その性格から、自分から出向いていくようなことはしない。浮舟の弟の小君に、自分の手紙を持たせて、浮舟を尋ねさせる。

(薫)法の師とたづぬる道をしるべにて 思わぬ山に踏み惑ふかな

最後の最後まで、煮え切れない態度の薫であった。

というよりは、所詮、薫にとっては、浮舟は、その程度の存在だったのかもしれない。

そして、それをメインテーマに選んだこの宇治十帖とは、作者にとって、どんな物語だったのだろうか。

夢浮橋:これで終わり?

いよいよ、この長い物語も、この54番目の帖で、終わりを迎える。

それにしても、これだけ長い長い物語の終わりとしては、?、と思わざるを得ない。

宇治川に身を投げたが死に切れなかった浮舟。浮舟が生きていたことを知った薫が、浮舟に会おうとするが、浮舟はそれを拒否し、薫も、無理に会おうとは思わない。

まるで、すぐに次の帖が始まってしまいそうな雰囲気で、この物語は終わってしまう。

果たして、この物語の作者は、この結末を意図したのだろうか。それとも、途中で筆をおらざるを得ない事情があったのだろうか。

2013年3月4日月曜日

手習:ユーモラスなシーン

この帖では、さりげないところで、ちょっとしたユーモラスなシーンが、いくつか用意されている。

浮舟が、竹取物語のかぐや姫に例えられ、そのすぐ後に、浮舟自身が、こんな歌を詠む。

我かくて憂き世の中にめぐるとも 誰かは知らん月の都に

また、別なシーンでは、浮舟が、横川の僧都の母親らのイビキの大きさに悩まされるという、珍しいシーンが描かれる。

浮舟は、”今宵、この人々にや、食はれなん”と、オーバーな表現で、そのイビキを嘆く。

手習:いつも誰かの代わりとして扱われる浮舟

横川の僧都に助けられた浮舟をみて、その妹は、浮舟が、つい最近亡くなった、自分の娘に似ていることに驚く。

その夫だった中将も、亡き妻の面影を浮舟にみつけ、しつこく、浮舟に接近しようとする。

浮舟は、八の宮の娘で、母の違う大君と似ていることから、薫に思いを寄せられ、匂宮との三角関係になり、自ら命を絶とうとした。

浮舟は、常に、誰かに似ているという理由で、男に好かれる、ある意味では、不幸な女性だ。

あるいは、浮舟は、つねに他人から、誰かに似ていると思わせる、不思議な力を持っているのかもしれない。

手習:浮舟の変容

宇治川に身を投げた浮舟は、死に切れず、宇治宮の跡地に倒れていたところを、横川の僧都の一行に助けられる。

発見された時、始めは、狐が人に化けているのではないかと疑われるほど、憔悴しきっていた。

大君を死に追いやった、物の怪にも取り憑かれており、横川の僧都の法力によって、物の怪から解放されると、かつての美しさを取り戻す。

一度は、死を決意した浮舟は、ある意味では、一度は霊界に迷い込んで、再びこの世に戻ってきたのかもしれない。

2013年2月20日水曜日

蜻蛉:またも内省的になる薫

この帖の最後で、薫は、八の宮、大君、そして浮舟らを回想し、次の歌を詠む。

ありと見て手には取られず見れば又 ゆくへも知らず消えし蜻蛉

この歌から、この帖の名前が取られている。

亡くなった八の宮や大君を回想してそう詠んだのか、それとも、自分の人生を蜻蛉のように捉えたのか?

蜻蛉に出会い、にわかに積極的な行動に出た薫だったが、物語の全体の終わりに近づき、本来の内省的な性格に、また戻りつつある。

蜻蛉:浮かばれない浮舟

薫と匂宮の板挟みになり、宇治川に入水してしまった浮舟。

浮舟が姿を消してしまった当初は、二人とも悲嘆にくれる。特に、匂宮は、身も細るほどに、落ち込んでしまう。

しかし、四十九日が過ぎてしまうと、薫は明石中宮と帝の娘、女一宮に心を奪われ、匂宮も、亡くなった兵部卿の娘、宮君に興味を抱く。

これでは、二人のせいで死を決意した浮舟が、浮かばれない。

蜻蛉:久しぶりに光源氏と紫の上が登場

この帖では、久しぶりに光源氏と紫の上が登場する。

勿論、本人達が登場するわけではない。

光源氏の娘、明石中宮が、二人の法事を行うということが、この帖の真ん中ほどで語られる。

浮舟が死んだとされ、法要が営まれ、薫が、その悲しみも癒える間もなく、帝と明石中宮の長女、女一宮に惹かれていく、というシチュエーションで、この二人の名前がでてくることは、作者の何らかの意図があるのだろう。

蜻蛉:現代小説のような構成

冒頭で、浮舟が宇治川に入水したことが、ほのめかされる。

その後、この帖の前半は、浮舟の周辺の人々の証言を紹介し、どうして浮舟が入水したのかの背景が語られる。

こうしたストーリーの構成は、まるで現代小説のよう。

また、薫や匂宮も多く登場するが、身分の低い、乳母や侍従も多く登場し、浮舟の様子を回想する。この物語では、あまりない、珍しい展開だ。

2013年2月12日火曜日

浮舟:浮舟の本命はどっち?

薫と匂宮という、当時の2大イケメンに愛されてしまった、悲劇のヒロイン、浮舟。

果たして、彼女の本命はどっちだったのか?

物語を読む限りでは、最初は薫の愛を受け入れたが、匂宮の猛烈なアタックに戸惑い、次第に、心を匂宮に移していった、というように思われる。

しかし、薫にも、愛というよりは、申し訳ない、という気持ちが強く、完全に板挟み状態に陥ってしまう。

周囲の人間や、母親からもプレッシャーを受けた浮舟が選んだのは、自分さえいなくなればいいんだ、という、消極的な結論だった。

浮舟:いつの時代も男は永遠の愛を誓うもの

薫の目を盗んで、匂宮と浮舟が、密かに宇治で密会する場面。

船の上で、二人きりの時間を過ごすシーン。この物語の中でも、屈指の名シーン。

次の歌から、浮舟の名前も、この帖の名前も、とられている。

しかし、薫といい匂宮といい、いずれも、浮舟に永遠の愛を誓う歌を送る。いつの時代も、男は、永遠の愛を誓うものか。

(匂宮)年経ともかはらん物か橘の 小島がさきに契る心は

(浮舟)橘の小島は色もかわらじを この浮舟ぞゆくへ知られぬ

浮舟:肝心な所で詰めの甘い薫

今は亡き、大君によく似た浮舟を、宇治にかくまったまではよかったが、もたもたしているうちに、匂宮に見つけられ、浮気されてしまう薫。

肝心な所で、詰めが甘い薫。しかし、物語としては、登場人物に欠点のある方が、断然、おもしろくなる。

薫は、永遠の愛を誓うが、この歌を交わした時には、浮舟は、すでに匂宮とも、男と女の関係になってしまっていた。

(薫)宇治橋のながき契りは朽ちせじを あやぶむ方に心さわぐな

(浮舟)絶間のみ世にはあやうき宇治橋を 朽ちせぬ物となお頼めとや

浮舟:薫と匂宮の全面対決勃発す

これまで、ライバル関係と目されながら、直接対決することのなかった薫と匂宮。

ついに、この帖で、運命の女性、浮舟をめぐり、全面対決する。

いつになく、積極的に浮舟をものにしたものの、正室、女二宮の手前、なかなか自分の近くに引き取れず、宇治にかくまっていたが、目ざとい匂宮に見つかってしまい、匂宮も、あっというまに浮舟を誘惑してしまう。

いよいよ、宇治十帖も、クライマックスを迎える。

2013年2月4日月曜日

東屋:フォーカスを絞った宇治十帖の構成

光源氏が中心だった、この物語の前半部分は、光源氏の愛する女性も多彩で、その活動範囲も、須磨に行ったり、住吉に行ったりと、いろいろな場所が舞台になっていた。

後半の宇治十帖では、登場人物は男性は薫と匂宮、女性は大君、中君、そして浮舟、この5人に絞られている。

場所も、宇治と都を行ったり来たりし、宇治に帰ると、ストーリーが展開するというパターンの繰り返し。

現代的な視点で見れば、後半の方が、小説の構成としては、優れているように思える。

(弁尼)やどり木は色かはりぬる秋なれど 昔おぼえて澄める月かな

(薫)里の名も昔ながらに見し人の 面がわりせる閨の月影

東屋:いつになく積極的な薫

死に別れてしまった、大君にそっくりの浮舟のことを知った薫は、まるで、慎重な性格であることを忘れてしまったかのように、あっという間に、浮舟をものにしてしまう。

それは、大君に積極的になれなかった、その失敗を取り戻すかのようにようだ。

物語りの構成としては、薫と中君の、煮え切れない関係の後であるだけに、浮舟に飛びついてしまった薫の行動が、それほど不自然さを感じさせない。

しかし、これで、めでたしめでたし、で終わらないところが、この物語りの、面白いところでもある。

東屋:またも描かれる娘の嫁ぎ先探し

天皇の子供である八宮と、中将君の娘である浮舟。

八宮の死後、常陸の介のもとに嫁いだ中将君だが、浮舟が、常陸介との子供でないことから、少将から嫁にすることを断わられる。

この物語の中で、これまで何度となく描かれてきた、お馴染みのテーマ。

マンネリした感もあるが、別な見方をすれば、それほど、娘の嫁ぎ先探しは、当時の親たちにとっては、重要な関心事だった、ということもできる。

探しているうちに、浮舟が匂宮に狙われたように、思わぬ相手にさらわれてしまうこともあったのだろう。

(浮舟)ひたぶるに嬉からまし世の中に あらぬ所と思はましかば

(中将君)憂き世にはあらぬ所を求ても 君が盛りを見るもよしがな

2013年1月19日土曜日

宿木:秋の宇治での浮舟との出会い

薫は、久し振りに、宇治のかつての八宮の住まいを訪れる。その地で詠んだ、薫の歌が、この帖の名前に取られている。

(薫)宿り木と思い出でずば木のもとの 旅寝もいかに寂しからまし

(弁の尼)荒れ果つる朽木のもとを宿り木と 思い置きける程の悲しさ

薫は、ここに、お堂を建てることを思い立つ。

秋の宇治。紅葉が落ちて地を覆っている。木枯らしが吹き荒れている。そうして宇治の描写は美しい。人間関係に明け暮れる都との描写の対比は、見事だ。

そして、薫は、その宇治で、かねて噂に聞いていた、八の宮の娘で、母が大君や中君とは異なる、浮舟に出会う。

宿木:周りに振り回される薫と匂宮

薫と匂宮は、光源氏とは違い、自分で周りの状況を動かすことが出来ない。

それは、二人の性格のせいもあるが、光源氏は、天皇の子供である、という立場の違いでもある。

今上天皇は、藤壷との間に生まれた女二宮を、薫に嫁がせようと画策する。これは、かつて、朱雀院が、女三宮を光源氏に嫁がせたのと同じパターンだ。

一方で、夕霧は、娘の六君を、薫に嫁がせようと思っていたが、今上天皇の動きを見て、六君を匂宮に嫁がせる。

薫と匂宮は、周りの人々の思惑によって、その人生を過ごしていかなければならない。

宿木:薫と中君の煮え切れない関係

この宿木の帖では、大君を失った薫が、その妹で、匂宮に嫁いだ中君への思いを断ち切れない、二人の煮え切れない関係が、延々と描かれる。

中君は、匂宮によって都に連れてこられたものの、匂宮には、夕霧の娘、六の君が嫁いでくることで、微妙な立場に追いやられる。

薫は、かつて中君を匂宮に紹介したことを公開しながらも、ますます亡くなった大君に似てくる中君から、思いを離すことが出来ない。