この帖は、夏から秋に変わる8月に、都を襲った野分を中心に描かれている。また、その季節の植物の名前が多く登場する。
萩、紫苑、撫子、アコメ、女郎花、リンドウ、朝顔、など。
そのせいか、この帖を描いた絵巻物には、そうした草花を描いた作品が多い。
2012年6月24日日曜日
野分:夕霧と光源氏の関係
この帖では、光源氏と夕霧の関係が描かれている。
夕霧は、父親である光源氏の正室、紫の上を初めて、目にし、その美しさに心奪われる。
また、父の光源氏が、養女である玉鬘と、まるで恋人同士であるかのように振る舞っているのを見て、大きなショックを受ける。
夕霧は、父の光源氏とは違い、性格は真面目で、大人しい。
野分の被害を見舞うために、六条院の4つの屋敷を訪ね、同時にそれぞれの館の主である女性たちを、花にたとえたり、比較したりしている。
野分:台風に見舞われた都の様子
この帖では、野分、今で言う、台風に襲われた、光源氏の六条院の様子が描かれている。
六条院にあったいくつかの屋敷が、この台風によって、倒壊してしまった、と書かれている。庭にあった、木々や種々も、倒れたり、痛んだりしている。
この野分は、単なる自然現象として、描かれているのではないだろう。この帖で描かれていることを、いわば象徴する存在として、描かれているように思える。
六条院にあったいくつかの屋敷が、この台風によって、倒壊してしまった、と書かれている。庭にあった、木々や種々も、倒れたり、痛んだりしている。
この野分は、単なる自然現象として、描かれているのではないだろう。この帖で描かれていることを、いわば象徴する存在として、描かれているように思える。
2012年6月17日日曜日
篝火:鈴虫のような少年の歌声
この帖の後半、玉鬘から拒絶され、光源氏は近くで楽器を演奏していた、夕霧、柏木、弁少将を呼び、ともに、音楽を楽しむ。
内大臣(頭中将)の息子である、柏木は、憧れの玉鬘を前にして、緊張を隠せない。そこで、弟の弁少将は、その美しい声を聞かせる。
その美しい歌声は、次のように表現されている。
拍子うちいでて、忍びやかに謡う声、鈴虫にまがひたり。
鈴虫のような、か細く、女性のような、美しい声だと表現している。
内大臣(頭中将)の息子である、柏木は、憧れの玉鬘を前にして、緊張を隠せない。そこで、弟の弁少将は、その美しい声を聞かせる。
その美しい歌声は、次のように表現されている。
拍子うちいでて、忍びやかに謡う声、鈴虫にまがひたり。
鈴虫のような、か細く、女性のような、美しい声だと表現している。
篝火:篝火の煙になぞらえる淡い恋心
この帖の題名にもなっている篝火を巡る、光源氏と血のつながりのない玉鬘との歌のやり取り。
(光源氏)篝火にたちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬほのほなりけれ
(玉鬘)行く方なき空に消ちてよ篝火の たよりにたぐふ煙とならば
篝火から立ち上る煙に、自分の恋心を表現した光源氏に対して、許されぬ恋のような煙は、空に消えてくださいと、拒絶する玉鬘。
庭に篝火を焚いて、添い寝する光源氏と玉鬘。そこで交わされる、微妙な恋の駆け引き。文字通り、絵になるシーン。この物語の中でも、その印象の深さは、群を抜いている。
(光源氏)篝火にたちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬほのほなりけれ
(玉鬘)行く方なき空に消ちてよ篝火の たよりにたぐふ煙とならば
篝火から立ち上る煙に、自分の恋心を表現した光源氏に対して、許されぬ恋のような煙は、空に消えてくださいと、拒絶する玉鬘。
庭に篝火を焚いて、添い寝する光源氏と玉鬘。そこで交わされる、微妙な恋の駆け引き。文字通り、絵になるシーン。この物語の中でも、その印象の深さは、群を抜いている。
篝火:短いながら完成度が高い帖
この帖は、短いながら、その分、完成度が高く、とりわけ、印象に残る帖となっている。
前半では、光源氏と玉鬘の、血のつながりのない、父と娘の、微妙な恋の駆け引きが行われる。
後半は、あきらめた光源氏が、夕霧や柏木らを呼び、音楽を演奏させる。
優雅な貴族の生活、光源氏の性格、恋の象徴としての篝火、光源氏と夕霧らの次の世代との交流・・・
こうしてみると、この帖は、ある意味では、この物語全体を象徴するような内容になっている。
前半では、光源氏と玉鬘の、血のつながりのない、父と娘の、微妙な恋の駆け引きが行われる。
後半は、あきらめた光源氏が、夕霧や柏木らを呼び、音楽を演奏させる。
優雅な貴族の生活、光源氏の性格、恋の象徴としての篝火、光源氏と夕霧らの次の世代との交流・・・
こうしてみると、この帖は、ある意味では、この物語全体を象徴するような内容になっている。
常夏:近江の君と笑い
この物語の中でも、とりわけ個性が強く、印象深いのが、この帖から登場する近江の君。
内大臣(頭中将)と、近江にゆかりのある女性との間に生まれた娘と思われるが、双六に夢中になったり、早口でまくしたてたりと、その姿は、まるで現代の普通の少女のよう。
しかし、その近江の君は、雅にデコレーションされたこの時代に会っては、鄙びており、笑いの対象になってしまう。
この物語の作者は、あくまでも、笑いの対象として、そして、内大臣の欠点を描く素材として、この近江の君を登場させたのかもしれないが、その存在は、笑いというものの本質、あるいは、貴族社会の本質をあぶり出す、そんな存在になっている。
常夏:大和琴を絶賛
前の蛍の帖の物語論に続き、この帖では、大和琴をめぐる音楽論が、光源氏の口から語られる。
光源氏によれば、大和琴は、決して派手な楽器ではないが、多くの音色をもつ、奥深い楽器、ということになる。
玉蔓にも、大和琴を習うことを、強く勧めている。
この大和琴の名手は、光源氏でなく、ライバルの内大臣(頭中将)ということになっている。何をさせても、常に人に秀でていた光源氏だが、唯一、この大和琴に関してだけは、内大臣(頭中将)の席を譲る。
光源氏によれば、大和琴は、決して派手な楽器ではないが、多くの音色をもつ、奥深い楽器、ということになる。
玉蔓にも、大和琴を習うことを、強く勧めている。
この大和琴の名手は、光源氏でなく、ライバルの内大臣(頭中将)ということになっている。何をさせても、常に人に秀でていた光源氏だが、唯一、この大和琴に関してだけは、内大臣(頭中将)の席を譲る。
常夏:内大臣と光源氏の対比
この帖では、前半で、光源氏と玉鬘のシーン、そして後半で、ライバルの内大臣(頭中将)と近江の君のシーンを描き、父娘のやりとりが、鮮明な対比として、描かれている。
光源氏は、玉鬘を大事に育てながら、しかし、その血のつながらない美しい娘に、恋心を抱いている。
一方の内大臣は、田舎育ちの近江の君の雅でない立ち振る舞いに不満を抱きながらも、この娘を、一人前の女性にするために、どのようにすればいいか、頭を悩めている。
勿論、この物語の作者は、光源氏の方を評価しているのだが、果たして、本当は、どちらの父親がまともなのだろうか?
光源氏は、玉鬘を大事に育てながら、しかし、その血のつながらない美しい娘に、恋心を抱いている。
一方の内大臣は、田舎育ちの近江の君の雅でない立ち振る舞いに不満を抱きながらも、この娘を、一人前の女性にするために、どのようにすればいいか、頭を悩めている。
勿論、この物語の作者は、光源氏の方を評価しているのだが、果たして、本当は、どちらの父親がまともなのだろうか?
2012年6月10日日曜日
蛍:物語の勝利
この帖では、有名な、歴史書に対する、物語の優位性が、光源氏の口から語られ、これは作者の意見であるともされている。
『日本紀』などは、ただかたそばぞかし。これらにこそ、道々しく詳しきことはあらめ。
『日本書紀』には、政治上の出来事しか、うわべのことしか書かれていない。物語の方にこそ、そこに生きた人々の心情が書かれている。とでもいったところだろうか。
さらに、養女の玉鬘に対して、この物語を、二人でたぐいまれな物語にして、後世にまで伝えよう、と言っている。
この作者の言葉は、その希望通り、実現した。この物語は、今日、この国のみならず、世界中の国で、読まれている。
その意味では、あきらかに、『日本書紀』に勝ったのだ。
『日本紀』などは、ただかたそばぞかし。これらにこそ、道々しく詳しきことはあらめ。
『日本書紀』には、政治上の出来事しか、うわべのことしか書かれていない。物語の方にこそ、そこに生きた人々の心情が書かれている。とでもいったところだろうか。
さらに、養女の玉鬘に対して、この物語を、二人でたぐいまれな物語にして、後世にまで伝えよう、と言っている。
この作者の言葉は、その希望通り、実現した。この物語は、今日、この国のみならず、世界中の国で、読まれている。
その意味では、あきらかに、『日本書紀』に勝ったのだ。
蛍:象徴としての蛍
この帖の題名にもなっている蛍。光源氏が、異母弟の蛍兵部卿宮のために、蛍の明かりで、玉鬘の姿を暗い中で浮き立たせる、という演出に使っている。
玉鬘の美しさに感激した蛍兵部卿宮と、玉鬘が交わした歌。
(蛍宮)なく声もきこえぬ虫の思いだに 人の消つにはきゆるものかは
(玉鬘)声はせで身をのみこがす蛍こそ 言うよりまさる思いなるらめ
蛍の光を、燃える恋の思いとかけている。蛍という存在は、いかにも、当時の王朝文化を象徴している。
玉鬘の美しさに感激した蛍兵部卿宮と、玉鬘が交わした歌。
(蛍宮)なく声もきこえぬ虫の思いだに 人の消つにはきゆるものかは
(玉鬘)声はせで身をのみこがす蛍こそ 言うよりまさる思いなるらめ
蛍の光を、燃える恋の思いとかけている。蛍という存在は、いかにも、当時の王朝文化を象徴している。
蛍:ますます異常さを増す光源氏の行動
蛍の帖では、養子として引き取った、夕顔の忘れ形見、玉鬘への光源氏の愛情が、ますます異常なものになっていく。
玉鬘に想いを寄せる、異母弟の蛍兵部卿宮に味方して、侍女に代筆までさせて、宮を玉鬘の元に誘い出し、暗い夜の中で蛍を放ち、わざと玉鬘の姿を見えやすくする。
その一方では、自らの玉鬘への想いを募らせ、時には、玉鬘に無理矢理、自分は娘想いの父親だという歌を詠ませたりする。
光源氏は、この時36才。まだ恋に現役である年齢でありながら、しかし、父親でもあるという、微妙な年齢に達している。
この物語は、そうした男性の心の成長の物語を、女性の目を通して描いている。
玉鬘に想いを寄せる、異母弟の蛍兵部卿宮に味方して、侍女に代筆までさせて、宮を玉鬘の元に誘い出し、暗い夜の中で蛍を放ち、わざと玉鬘の姿を見えやすくする。
その一方では、自らの玉鬘への想いを募らせ、時には、玉鬘に無理矢理、自分は娘想いの父親だという歌を詠ませたりする。
光源氏は、この時36才。まだ恋に現役である年齢でありながら、しかし、父親でもあるという、微妙な年齢に達している。
この物語は、そうした男性の心の成長の物語を、女性の目を通して描いている。
2012年6月9日土曜日
胡蝶:せつない玉鬘の乙女心
光源氏のもとに引き取られ、何不自由のない暮らしを送っているかに見える玉鬘。しかし、その心は、さまざまな想いで、悩み多い日々を送っていた。
玉鬘の本当の父親は、内大臣かつての頭の中将だが、内大臣はその事実を知らない。玉鬘は、一度、本当に父親に会ってみたいと思っているが、光源氏には、そんなことはとても言い出せない。
しかも、その内大臣の母親違いの息子である柏木からは、熱烈な恋文が届いている。
光源氏は、いい保護者だが、玉鬘に母親の夕顔の面影を見ているので、自分に言い寄ってくる。
そんな状況に陥ったら、誰でも憂鬱な気分に沈んでしまうだろう。玉鬘は、まだ22才なのだから。
玉鬘の本当の父親は、内大臣かつての頭の中将だが、内大臣はその事実を知らない。玉鬘は、一度、本当に父親に会ってみたいと思っているが、光源氏には、そんなことはとても言い出せない。
しかも、その内大臣の母親違いの息子である柏木からは、熱烈な恋文が届いている。
光源氏は、いい保護者だが、玉鬘に母親の夕顔の面影を見ているので、自分に言い寄ってくる。
そんな状況に陥ったら、誰でも憂鬱な気分に沈んでしまうだろう。玉鬘は、まだ22才なのだから。
胡蝶:作者から見た理想の男性像
光源氏は、かつての親友、頭の中将と亡き夕顔との娘、玉鬘を誘拐し、自分の元で、理想の女性となるべく養育する。
光源氏は、玉鬘を、誰もが結婚したいと願うような女性に育て、男性たちから玉鬘に送られたラブレターをチェックして、返信についてもアドバイスしたりする。
玉鬘の母の夕顔は、かつての光源氏の恋人であり、玉鬘にもその面影を見る光源氏は、玉鬘に言い寄ったりする。
誘拐してでも、手元において財を尽くし養育しながら、時に自分にも恋心を感じてくれる。そんな、ある意味、異常な男性が、この作者の考える理想の男性像なのだろうか?
光源氏は、玉鬘を、誰もが結婚したいと願うような女性に育て、男性たちから玉鬘に送られたラブレターをチェックして、返信についてもアドバイスしたりする。
玉鬘の母の夕顔は、かつての光源氏の恋人であり、玉鬘にもその面影を見る光源氏は、玉鬘に言い寄ったりする。
誘拐してでも、手元において財を尽くし養育しながら、時に自分にも恋心を感じてくれる。そんな、ある意味、異常な男性が、この作者の考える理想の男性像なのだろうか?
胡蝶:華やかな王朝の遊び
胡蝶の帖の冒頭、光源氏の六条院では、華やかな王朝の暮らしを象徴するようなシーンが展開される。
春の御殿と秋の御殿にまたがっている池に、船を浮かべ、その上で、雅楽を演奏させ、女御たちも、船にのって、優雅に和歌などを詠んだりする。
夜になっても、宴は続き、人々は、自ら楽器を演奏して楽しむ。
その様子を作者は、”物の絵ようにも書きとらまほしき”と記している。絵に描いたような、と今日でも使われる表現は、この時代からも使われていた。
春の御殿と秋の御殿にまたがっている池に、船を浮かべ、その上で、雅楽を演奏させ、女御たちも、船にのって、優雅に和歌などを詠んだりする。
夜になっても、宴は続き、人々は、自ら楽器を演奏して楽しむ。
その様子を作者は、”物の絵ようにも書きとらまほしき”と記している。絵に描いたような、と今日でも使われる表現は、この時代からも使われていた。
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