2012年5月19日土曜日

初音:離ればなれに暮らす母娘の和歌

ひさしぶりに訪ねてきた、幼い我が娘に対して、明石の上が詠んだ歌。その中の言葉が、この帖の題にもなっている。

年月をまつにひかれて経る人にけふ鶯の初音聞かせよ

それに対して、わずか8才の明石の姫が、応えた歌。

ひきわかれ年へ経れども鶯の巣だちし末の根をわすれめや

男女の中の歌は珍しくないが、親子、それも母と娘の歌のやりとり、はめずらしい。会いたくても、会うことができない。そんな母娘の境遇の悲しさが伝わってくる。

8才の少女にこんな歌が詠めるかなあ、という気がしないでもないが。

初音:短いながらオールスターキャストの帖

この帖は、六条院での正月の様子を描いており、実に短い。しかし、これまでの主要なキャストが総出演する。

光源氏は、久し振りに、明石の姫とともに明石の上のもとを訪ねる。また、花散里や玉鬘、二条院でさびしく暮らす、空蝉、末摘花なども登場する。

それぞれに、性格が書きわけられている。それぞれの女性に対する光源氏も、相手の性格を理解して、それにあった会話、対応をしている。

そうした雰囲気の変化は、まるで、短い音楽の中で、次々と主題が変わっていくのを聞いているように感じ、不思議な雰囲気を漂わせている帖だ。

2012年5月12日土曜日

玉鬘:夫婦漫才のような光源氏と紫の上の会話

玉鬘を、若い男なら誰もが憧れる女性に育てよう、と紫の上に宣言する光源氏。

それに対して、そんなことを考える親なんて、おかしいわ、と突っ込む紫の上。

すかさず光源氏は、そういえば、あたなにもそのようにしていれば、今のような”普通の人妻”にはならなかったでしょうね、と返す。

二人のこうしたやり取りは、まるで夫婦漫才を聞いているようで、読んでいても楽しい。

玉鬘:六条院でのファッションショー

玉鬘を六条院に引き取り、新年を迎えるにあたり、光源氏は、六条院の女性たちに、それぞれに豪華な着物を送る。

そうした着物の表現を拾って見ると。

紅梅、葡萄染、浅縹の海賦の文、山吹の花、柳の織物、梅の折り枝、蝶、鳥、青鈍の織物・・・

そうした表現から、当時の着物の生地や柄がうかがえる。

玉鬘:露骨な地方蔑視の思想

肥前で美しい女性として成人した、夕顔の忘れ形見、玉鬘。彼女に、肥後の大夫監という人物が求婚する。

肥後の豪族で、武士のような人物だったといわれている。物語の中では、大柄で、荒々しく、和歌は下手くそ、と散々な扱い。

当時の、都から地方を見る、地方の豪族という人物像の、典型的な見方だったのだろう。

玉鬘:相変わらずのボケ役の末摘花

この帖では、久し振りに末摘花が登場。しかし、相変わらずのボケ役。

光源氏から送られた衣装のお礼に返した和歌を、光源氏にからかわれる。その和歌とは、

着てみれば恨みられけり唐衣返してやりてん袖を濡らして

和歌になじみのない人から見れば、それなりの歌のように思えるが、光源氏によれば、”唐衣”という言葉は、当時は古めかしい言葉で、誰も和歌には使わなくなっていたという。

光源氏は、そうはいいつつも、末摘花という女性を決して嫌ってはいないようだ。

玉鬘:波瀾万丈のストーリー

かつて、光源氏が想いを寄せた夕顔。その娘である玉鬘が、肥前の地から京に上り、最終的に光源氏の屋敷に落ち着くことになるまでを描いた、波瀾万丈のストーリーが描かれている。

肥前の地では、肥後の豪族から求婚されて、それを避けるために夜逃げするように船で肥前を離れる。京では身を寄せることがなく、長谷寺にいたところ、昔の夕顔の家人だった右近と偶然に遭遇。右近が光源氏のもとで働いていたことから、ようやく、光源氏の元に落ち着くことになった。

特に、長谷寺で偶然に右近と遭遇する場面は、描写が実にリアル。他の帖とは、全く違った雰囲気の帖になっている。