2013年2月20日水曜日

蜻蛉:またも内省的になる薫

この帖の最後で、薫は、八の宮、大君、そして浮舟らを回想し、次の歌を詠む。

ありと見て手には取られず見れば又 ゆくへも知らず消えし蜻蛉

この歌から、この帖の名前が取られている。

亡くなった八の宮や大君を回想してそう詠んだのか、それとも、自分の人生を蜻蛉のように捉えたのか?

蜻蛉に出会い、にわかに積極的な行動に出た薫だったが、物語の全体の終わりに近づき、本来の内省的な性格に、また戻りつつある。

蜻蛉:浮かばれない浮舟

薫と匂宮の板挟みになり、宇治川に入水してしまった浮舟。

浮舟が姿を消してしまった当初は、二人とも悲嘆にくれる。特に、匂宮は、身も細るほどに、落ち込んでしまう。

しかし、四十九日が過ぎてしまうと、薫は明石中宮と帝の娘、女一宮に心を奪われ、匂宮も、亡くなった兵部卿の娘、宮君に興味を抱く。

これでは、二人のせいで死を決意した浮舟が、浮かばれない。

蜻蛉:久しぶりに光源氏と紫の上が登場

この帖では、久しぶりに光源氏と紫の上が登場する。

勿論、本人達が登場するわけではない。

光源氏の娘、明石中宮が、二人の法事を行うということが、この帖の真ん中ほどで語られる。

浮舟が死んだとされ、法要が営まれ、薫が、その悲しみも癒える間もなく、帝と明石中宮の長女、女一宮に惹かれていく、というシチュエーションで、この二人の名前がでてくることは、作者の何らかの意図があるのだろう。

蜻蛉:現代小説のような構成

冒頭で、浮舟が宇治川に入水したことが、ほのめかされる。

その後、この帖の前半は、浮舟の周辺の人々の証言を紹介し、どうして浮舟が入水したのかの背景が語られる。

こうしたストーリーの構成は、まるで現代小説のよう。

また、薫や匂宮も多く登場するが、身分の低い、乳母や侍従も多く登場し、浮舟の様子を回想する。この物語では、あまりない、珍しい展開だ。

2013年2月12日火曜日

浮舟:浮舟の本命はどっち?

薫と匂宮という、当時の2大イケメンに愛されてしまった、悲劇のヒロイン、浮舟。

果たして、彼女の本命はどっちだったのか?

物語を読む限りでは、最初は薫の愛を受け入れたが、匂宮の猛烈なアタックに戸惑い、次第に、心を匂宮に移していった、というように思われる。

しかし、薫にも、愛というよりは、申し訳ない、という気持ちが強く、完全に板挟み状態に陥ってしまう。

周囲の人間や、母親からもプレッシャーを受けた浮舟が選んだのは、自分さえいなくなればいいんだ、という、消極的な結論だった。

浮舟:いつの時代も男は永遠の愛を誓うもの

薫の目を盗んで、匂宮と浮舟が、密かに宇治で密会する場面。

船の上で、二人きりの時間を過ごすシーン。この物語の中でも、屈指の名シーン。

次の歌から、浮舟の名前も、この帖の名前も、とられている。

しかし、薫といい匂宮といい、いずれも、浮舟に永遠の愛を誓う歌を送る。いつの時代も、男は、永遠の愛を誓うものか。

(匂宮)年経ともかはらん物か橘の 小島がさきに契る心は

(浮舟)橘の小島は色もかわらじを この浮舟ぞゆくへ知られぬ

浮舟:肝心な所で詰めの甘い薫

今は亡き、大君によく似た浮舟を、宇治にかくまったまではよかったが、もたもたしているうちに、匂宮に見つけられ、浮気されてしまう薫。

肝心な所で、詰めが甘い薫。しかし、物語としては、登場人物に欠点のある方が、断然、おもしろくなる。

薫は、永遠の愛を誓うが、この歌を交わした時には、浮舟は、すでに匂宮とも、男と女の関係になってしまっていた。

(薫)宇治橋のながき契りは朽ちせじを あやぶむ方に心さわぐな

(浮舟)絶間のみ世にはあやうき宇治橋を 朽ちせぬ物となお頼めとや

浮舟:薫と匂宮の全面対決勃発す

これまで、ライバル関係と目されながら、直接対決することのなかった薫と匂宮。

ついに、この帖で、運命の女性、浮舟をめぐり、全面対決する。

いつになく、積極的に浮舟をものにしたものの、正室、女二宮の手前、なかなか自分の近くに引き取れず、宇治にかくまっていたが、目ざとい匂宮に見つかってしまい、匂宮も、あっというまに浮舟を誘惑してしまう。

いよいよ、宇治十帖も、クライマックスを迎える。

2013年2月4日月曜日

東屋:フォーカスを絞った宇治十帖の構成

光源氏が中心だった、この物語の前半部分は、光源氏の愛する女性も多彩で、その活動範囲も、須磨に行ったり、住吉に行ったりと、いろいろな場所が舞台になっていた。

後半の宇治十帖では、登場人物は男性は薫と匂宮、女性は大君、中君、そして浮舟、この5人に絞られている。

場所も、宇治と都を行ったり来たりし、宇治に帰ると、ストーリーが展開するというパターンの繰り返し。

現代的な視点で見れば、後半の方が、小説の構成としては、優れているように思える。

(弁尼)やどり木は色かはりぬる秋なれど 昔おぼえて澄める月かな

(薫)里の名も昔ながらに見し人の 面がわりせる閨の月影

東屋:いつになく積極的な薫

死に別れてしまった、大君にそっくりの浮舟のことを知った薫は、まるで、慎重な性格であることを忘れてしまったかのように、あっという間に、浮舟をものにしてしまう。

それは、大君に積極的になれなかった、その失敗を取り戻すかのようにようだ。

物語りの構成としては、薫と中君の、煮え切れない関係の後であるだけに、浮舟に飛びついてしまった薫の行動が、それほど不自然さを感じさせない。

しかし、これで、めでたしめでたし、で終わらないところが、この物語りの、面白いところでもある。

東屋:またも描かれる娘の嫁ぎ先探し

天皇の子供である八宮と、中将君の娘である浮舟。

八宮の死後、常陸の介のもとに嫁いだ中将君だが、浮舟が、常陸介との子供でないことから、少将から嫁にすることを断わられる。

この物語の中で、これまで何度となく描かれてきた、お馴染みのテーマ。

マンネリした感もあるが、別な見方をすれば、それほど、娘の嫁ぎ先探しは、当時の親たちにとっては、重要な関心事だった、ということもできる。

探しているうちに、浮舟が匂宮に狙われたように、思わぬ相手にさらわれてしまうこともあったのだろう。

(浮舟)ひたぶるに嬉からまし世の中に あらぬ所と思はましかば

(中将君)憂き世にはあらぬ所を求ても 君が盛りを見るもよしがな