2012年12月24日月曜日

早蕨:大人になっていく中君

八の宮の二人の娘、大君と中君。ここまでは、姉の大君ばかりに焦点が当たっていた。中君は、しっかりものの姉に庇護される存在、として描かれてきた。

しかし、その大君が亡くなり、中君も、自分で自分の人生のみの振り方を決めて行かなければならない。次第に、中君の個性が表に出てくる。

そうすると、自然と、中君の姿は、姉の大君の姿に重なるようになっていく。

この帖では、正月から2月までの季節が描かれている。早蕨、梅、そして桜が描かれている。冬から春の訪れに合わせて、一人の女性が、大人になっていく様子が描かれる。

人物の変化と、季節の変化を重ねて描く、作者の描写は、見事、という他ない。

中君が、大人へ変化する象徴的なシーン、長く暮らした宇治を離れる際に歌われる歌は、心に強く残る。

(中君)眺むれば山より出でて行く月も 世にすみ侘びて山にこそ入れ

早蕨:薫と匂宮との微妙な間柄

宇治十帖で、主要な登場人物である薫と匂宮。いずれも光源氏に縁があり、イケメンで年齢も近い。二人の関係は、友情もあれば、恋のライバルでもある。

大君が死んでしまい、落ち込んでいる薫を、匂宮は、気の毒がって、心配りをし、薫も匂宮の配慮に、友情を感じる。

しかし、その一方で、薫は中君が次第に大君に似てきていることもあり、中君に淡い恋心を抱くようになり、匂宮はそれを警戒する。

今も昔も、若い男同士の関係は、こんなものだ。

(匂宮)祈る人の心にかよふ花なれや 色には出でず下に匂へる

(薫)見る人にかごと寄せける花の枝を 心してこそ折るべかりけれ

梅が香る季節に、薫が匂宮を訪れるこのシーンは、古来、多くの絵に描かれてきた。

早蕨:短いながら中身は濃い

この早蕨の帖は、前の総角の帖が長かったのに比べて、拍子抜けするほど短い。

しかし、大君の死後、匂宮がついに中君を自分の元に呼ぶことを決断し、中君が宇治を離れ、都で暮らし始めるまでのことを描いている。

短いながら、宇治を離れる中君の思い、弁の君との別れ、夕霧の娘の六の君の匂宮への輿入れ、そして、薫の中君への恋心など、いろいろなテーマが登場する。

2012年12月20日木曜日

総角:薫と大君の最後の時間

(薫)総角に長き契りを結びこめ おなじ所によりもあはなん

(大君)ぬきもあへずもろき涙の玉の緒に ながき契りをいかが結ばん

この二人のすれ違いの和歌で始まったこの帖は、実に長い。延々と、この二人のすれ違いが描かれず。

そして、最後には、病いの大君を訪ねた薫が、大君の最後を看取る。

その大君の最後は、実に丹念に、長々と描かれる。

それは、まるで、薫の大君への思いの複雑さを、そのまま表しているようだ。

総角:周りに振り回されるだけの匂宮

光源氏と明石の君の子、明石中宮と今上天皇の子、匂宮。

この帖では、周りに振り回されてばかりの、気の毒な役を演じている。

大君に想いを寄せる薫、大君から中君を押し付けられそうになると、その中君を匂宮と結びつけてしまう。

母親の明石中宮は、匂宮を、夕霧と藤典侍の娘、六君と結婚させようとしているので、匂宮が頻繁の宇治に通うことを快く思っていない。

母からのプレッシャーを感じ、なかなか宇治を訪れることが出来ず、中君は悲しみに暮れる。

かつて、散々、周りの人間を振り回した祖父の光源氏の因縁か、とにかく周りに振り回される匂宮であった。

総角:薫と大君の奇妙な関係

大君に熱烈な思いを寄せ、しつこく、大君の住む宇治を訪れる大君。

いやいやながらも、父と親しく交際していた薫の訪問を断りきれない、大君。しかし、ついに、薫の気持ちを受け入れることはなかった。

薫は、積極的に大君に迫る物の、強引に操を奪う、というわけではない。

大君は、妹の中君を薫と結びつけようとするが、薫は、逆に匂宮に中君を、押し付けてしまう。

何とも煮え切れない、この二人の関係は、結果的に、大君は、その匂宮と中君の行く末を案じた心労が元で、ついに亡くなってしまう。

総角:主人公は大君

この帖の主人公は、紛れもなく大君だ。

父の八の宮が亡くなり、妹の中君と二人きりになってしまった。薫が大君に言い寄るが、大君は薫の愛を拒否、ひたすら、中君の幸せだけを願っている。

そして、匂宮と中君の行く末を気にやみ、その心労で、ついに儚く、亡くなってしまう。

自分の幸せを犠牲にし、妹の幸せのことだけを願うという、その後の日本の物語に登場する典型的な”姉”像は、この大君によって、すでに完成されていた、といっていい。

この物語全体の中でも、この大君は、とりわけ印象に残る、登場人物の一人だ。

2012年12月10日月曜日

椎本:頼りない薫

八宮は、亡くなる前から、薫に、自分が亡き後、二人の娘を保護するように、それとなくほのめかしていた。

八宮が亡くなり、薫の男としての力の見せ所だが、薫の性格からいって、強引に自分の屋敷に引き取ったりはできない。

どうしても、光源氏の強引さと、比べて、薫の頼りなさを感じてしまう。

薫の見方をすると、残された娘の一人、姉の大君が、薫より年上で、しかもしっかり者。薫が強引になれない状況がある、ともいえる。

神なき時代の、小さき人々による、人間悲喜劇が、引き続き展開されて行く。

椎本:宇治の自然の美しい描写

椎本の帖は、宇治十帖といわれるものの中の1つの帖。

特にこの帖では、二月から、年をまたいで翌年の夏まで、長い期間が描かれている。

宇治の四季のそれぞれの季節の様子が、雰囲気ある文章、多くの和歌によって、美しく描かれる。

(八宮)山風に霞吹きとく声はあれど 隔てて見ゆる遠の白波

(匂宮)遠近の汀に浪はへだつとも なほ吹き通え宇治の川風

あるいは、

(匂宮)を鹿なく秋の山里いかならむ 小萩が露のかかる夕暮

(大君)涙のみきりふたがれる山里は まがきに鹿ぞもろ声になく

椎本:八宮の死

光源氏とは異母弟にあたり、不運がかさなり、若くして妻を失い、美しい娘、二人と宇治の地に暮らしていた八宮。

出生の秘密をもつ薫にとっては、まるで、父のような存在だったが、この帖で、八月の真夏の時期に、突然亡くなってしまう。

天皇の子でありながら、その寂しい死は、余りにも悲しい。

しかし、この八宮の死によって、残された二人の娘と、薫、匂宮をめぐる、恋の物語が展開されていく。